|プロフィール
氏名:松本雄一 (Yuichi Mathumoto)
所属:関西学院大学 商学部 教授
研究テーマ:実践共同体による人材育成、経営組織における技能形成をテーマに研究
人々が組織の中でどのように技術を向上させるのか、そのために組織はどのようなメカニズムで支えているかなどに着目

 

─先日に引き続き、本日もインタビューの機会をいただき、ありがとうございます。今回は、先生が研究されている「実践共同体」についての事例やサードコミュニティが与える利点などについてお話を伺えたらと思います。よろしくお願いします!

はい、こちらこそよろしくお願いします。

 

|松本先生の研究のきっかけとは

─まずは、先生の研究のきっかけを教えていただけますか?

大学院の頃から、「組織における技能形成・スキルの形成」という分野を研究していました。
僕が書いた本の1冊目でも取り上げたのですが、社内・組織の中で学習を進めていくには、社内・社外で実践共同体を構築するのが一番良いんじゃないかと考えたんです。その前の研究があって、「じゃあここからは実践共同体を深めていこう」という感じになったというのが一番の理由です。

研究自体は事例研究で進めているのですが、調査している中で気づいたことがあります。どうも成功している組織の中でも技能を形成したり、共有したり実践値を高めている所というのは、実践共同体を作ってるな、ということです。

(『組織と技能』 松本雄一著 https://www.amazon.co.jp/dp/4561263950/ref=cm_sw_r_tw_dp_FVMFMK2R8P0BY7DQTWQR

 

|出版した本には、実践共同体の事例も

─2冊目の本も拝読しました。

ありがとうございます。
2冊目の本には実践共同体の事例を書いています。1冊目の本にも3つほど事例を載せたんですが、技能形成や意の伝承がうまくいっているところは実践共同体をやっている、作っていました。

 

|「実践共同体」はどういうものなのか/自治体マイスター制度の事例

─例えばサードプレイス的な、その場だけでない別のところでの実践共同体も推奨されているのを拝見したのですが、社内外でも実践共同体が育まれてそれが発展していくというような事例があったのでしょうか?

2冊目の本に書いた「自治体マイスター制度」というものがその事例ですね。調査を深めていくうちに、どうも彼らは、社内に閉じこもって技能を磨いてるだけじゃないんだという事が分かってきたんです。例えば、社外での技能講習会みたいなものを開いてみんなでその技能を見て学んだり、他の技能者がマイスターに質問したり……。そういう、社外での活動というのが、社内で技能伝承する以上に色んな人を育ててるんだっていう素敵な事例がありました。

やはり上手くいっているところ、本に取り上げたところというのは、実践共同体を社内・社外という形で広範囲に渡っていろいろな人を巻き込んで技能伝承をおこなってると。ひょっとしたら、社外に作るっていうのが社内に作ると同じくらい凄く重要なんじゃないかと思いましたね。

(『実践共同体の学習』松本雄一著 https://www.amazon.co.jp/dp/4561267166/ref=cm_sw_r_tw_dp_KE7DK6RFFHEVDZ1JWK8Y

 

|社外で実践共同体をつくることのメリットとは

─実践共同体という形を作る上で社内でおこなう場合と社外でおこなう場合の2つのエピソードがあると思うのですが、社内と社外での大きな違いはどういったものが挙げられますか?

もうこれはハッキリしてまして、組織の境界を超える事が出来るというのがやっぱり一番大きな違いですね。社内で技能を磨くということもすごく大事なんですけど、井の中の蛙と言いますか、その組織の中では十分勉強出来てるけど……っていう感じになる事も少なくないんです。境界横断、影響というものが学習を深めていくんですよね。社外で実践共同体をつくるということは、組織の境界を越える、会社というものの境界を越えて、新しい知識を発見できる。それがやりやすいということなんです。

先ほどの自治体マイスターの例もそうです。社内にもマイスターがいるのでその人から学べば良いんですけど、いつも同じ人から学んでいると、自分の実力ってどれくらいなんだろう?と分からなくなってしまうんです。外に出れば、同じような仕事をしている人が大勢いる。その中には自分よりもまだレベルの低い人もいれば、すごく高い人もいます。

 

|サードコミュニティが実践共同体に与えるメリットとは

例えば、ご自身と同じ仕事をしている人が100人いるところに飛び込んだとしたら、どういう気持ちになるのかを想像してみてください。

─確実に自分よりレベルが上の方もいらっしゃいますし、自分にはない視点を持ってる、新しい考え方を持ってる方もいらっしゃいますよね。モチベーションがやはりそこで上がりそうです。

仰る通りです。
まず、レベルの差というものがあります。レベルが上の人からは学べるし、レベルが下の人には教えることができる。教えることというのは、学ぶことでもありますよね?自分の知識を整理したりして学ぶことでもある。こういうのをメンターというのですが、メンターを務めるということは、その人自身の成長にもなるので重要なんですよね。

そして、違う視点を持っている人がいるということですね。自分にとってこれは良いと思ってても、社外に出てみると、それ違うぞみたいな感じに言われたり、逆にこれで良かったんだって確認できたりします。

そしてやはりモチベーションですよね。さっきのレベルの高い人、低い人みたいな形で自分ももっと頑張らなくちゃと思いますけど、もう単純に自分と同じことをやってる人がこんなにいるんだっていうのを、想像力豊かに考えて欲しいんですよね。とても嬉しいことだと思いますよ。

社外に実践共同体を持つことで、「やる気が高まった、違う視点を得た」というのを社内に持って帰る。これがやっぱり一番重要だと思うんですよね。
越境といっても、やっぱり越えっぱなしではありません。いずれは社内に戻ってくるんですよね。越境というと、「越えること」のほうを重視されがちですけど、戻ってきた時のことも重要視しなくてはいけないと思うんですよ。社外に実践共同体を持つメリットとして、結局会社に帰ってきて会社のためになるんですよ、というのがやっぱり一番大きいところかなと思うんですよね。

─越境して出ていって得た知識を社内・組織に持って帰ってきて提供する、共有するということですね。やはり社外で実践共同体をおこなったうえで社内で、という形のほうが良いというか、良い形での影響が出やすい、効果的ということでしょうか。

そういうことですね。
サードプレイス、サードコミュティという社外に出して、余計な活動をさせるというニュアンスで捉える人が居るかも知れないんですが、それは間違いです。社外での活動が、社内に帰ってくるというか、帰ってきた時の影響を見ていただきたいですね。

 

|「実践共同体」を導入した事例

─社外でのコミュニティ、実践共同体をおこなったことで、組織としての向上に繋がった事例や成果などはございますか?

実践共同体、サードコミュニティには、ローカルで孤立した人っていうのを結び付けるという基本的な機能・役割があるんです。

─ローカルで孤立した方?

例えば、会社の中でも高い知識は持ってるのに、なんか活かせずにいる人などですね。実際に実践共同体の本や専攻研究などでは、いろいろな会社内でそういう知識を持ってる人たちを集めて使っているというような事例もありますし。

─サードプレイス、サードコミュニティで得られるものとしては、インプット・アウトプットもそうですし、その技術などを会社に持ってくる越境っていう部分もあると。

はい、越境で知識を持って来られますよね。

─加えて、同じ好き同士が集まることでのモチベーションが向上するという部分もあると。

僕の研究の事例として、陶磁器産地の事例があります。陶磁器の作家って山奥に引きこもって1人でお茶碗を作ったり、お茶碗を割ったりしてるみたいな感じのイメージがあると思うんですが、大変ですよね?1人で閉じこもってやるのは。

─煮詰まっちゃう時もあるでしょうし……。

そりゃそうですよね。だけど実際に調べてみると、彼らは産地という地域内でいくつもの実践共同体を持ち、そこで知識を交換し合ったり、親睦深めたりしてることが分かったんです。孤立していた一人一人の作家や窯元が集まって、持っている知識を共有したり、一緒に展覧会やろうぜみたいな感じにしたり。あるいは親睦を深めたりっていうことができると。

 

|実践共同体とワーク・ライフバランス

ーインプット・アウトプット、メンター的な学習要素と、技術や知識を持って帰って共有するという越境、あとはモチベーション。社内外の実践共同体のメリットはこの3つがあると思っているのですが、社会人ですとか、そういった方に一番重要というか、「これ必要だよね」というような要素というのはどの点にあたりますか?

それらの点って、相互に影響を与えあっているんですよね。
モチベーションがあるから越境する。だから学習の効果が高まる。越境するとモチベーションが高まる。組織に還元できる。みたいな感じで、要は全てお互いがお互いを高めあってるような状態なんですね。だからどれが大事かというと多分全部大事ですね。そして、それらの要素のコアになるのがサードコミュニティなんです。

会社の外、あるいは会社の中に居場所を作る。別の居場所を作ることによって、この3つのそれぞれが高まっていって、相互に影響を与えあうというところが実践共同体の大事なところです。

ーサービスが目指してるコンセプトとしては、個人のワーク・ライフがエンリッチメント的に上がっていくことを目標ともしているのですが、こういったものにもサードコミュニティとか実践共同体が有効な可能性、繋がる可能性があるかというのは、率直にお伺いできますか?

ありますね。
実際にそうだと思うんですよね。会社のネットワークの中で率直に悩みを話し合うこともやっぱり大事だと思うんですけど、サードコミュニティで特に利害関係のない人にはより気軽に話せると思いますし、そこから得られるものも大きいでしょうし、得られなくても何の損にもならないということですよね。ワークとライフのバランスを取るというのは、その活動自体がライフの一つになると共に、ワークとライフのバランスを取る知恵、そういうのを上手く作り上げることができる。

この先行研究(エティエンヌ・ウェンガー 、リチャード・マクダーモット、ウィリアム・M・スナイダー(2002)『コミュニティ・オブ・プラクティス』翔泳社)の中で割とライフ寄りの実践共同体として言われているのは、サッカーママ、サッカーパパの集まりだっていう。日本で言うと、休日に野球チームが練習してると思うんですけど……。

(『コミュニティ・オブ・プラクティス』エティエンヌ・ウェンガー (著)、リチャード・マクダーモット (著)、ウィリアム・M・スナイダー (著) https://www.amazon.co.jp/Harvard-Business-School-Press/dp/4798103438

ー草野球とかの?

そうです!少年野球、リトルリーグとか。その周りにお母さん方いらっしゃいますよね?

ーいらっしゃいますね。息子がやってる……

子供の野球を見に来たり、世話をしたりする。あの集まりだっていうそういう感じです。そこで子育ての悩みとか実際に勉強どうやってやらせてるの?とか。それこそお母さん方お父さん方の友人関係っていうのが構築されてると。野球やサッカーを見に来てるんですけど、彼らは野球やサッカーの話はしないんですよ。そういうのも実践共同体に近いものとして考えることができます。学習しているのが、仕事の知識の話なのか子育てのノウハウなのかの違いだけなんですよね。

ーやっぱり学習というと仕事に繋がるビジネス的なものですとか勉強、法律とかがイメージとしては付きやすいんですけど、生活の知恵というかそういった形で子供の子育てはこうでああでこうで、くらいのより生活に入り込んだようなものも学習の一部であるということですね。

仰る通りですね。学習学習と言ってしまうんですけれど、それはすごく広く考えていただいたら良いんじゃないかと思いますね。仕事に関係ない学習というのも遠慮なく出来るというのが実践共同体だと思います。会社や研修で「論語を読もうぜ」っていっても、「論語なあ……」ってなるかも知れませんけど、「論語読みたい人!」っていう感じで社外に実践共同体作る。そうすると、本当に論語読みたい人だけが集まってくるのということですよね。

人事の人たちに伝えられるとしたら、人事が全くコントロールできないわけではないんだっていうこと。勝手に活動する遊び場を与えてるみたいな感じに思うのではなくて、割と創発的に勝手にできるコミュニティと、ある程度制度化されたコミュニティというところがあって、要はその真ん中くらいのイメージを持ってもらうのもいいかも知れないなと思います。

―やはり勝手にやるコミュニティというと、単純に遊んでるだけじゃないか!みたいな感じになりますし、逆にカッチリ制度としてこれはやっていい、これはダメっていうような限定的なものになるとあまり思うような効果が得られないということですね。

実践共同体の良いところは、複数のコミュニティに同時に所属出来るということなんです。同時に他のコミュニティにも所属して、こっちでは会社関係なく自由に作ることができるみたいな。そういう多重繊維性っていうのは強みだと思います。

例えば、本当に会社の中の人を集めて、もうここは会社がクエストを出します、と。そういう感じにすると、研修に新しい視点を加えることもできるかも知れないですね。それと、越境して多様な視点を集める、その両方を達成できますよっていうのは(実践共同体の)強みの一つなのかなという風に思いますね。